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第6章「レインボーテイル」

「陽が暮れてしまう前に、虹色の鳥のすみかを探そう。」

僕らはコンパスを頼りに、島の中心部を目指すことにした。

虹色の鳥はこの島の森の奥にいる。

そう思うと僕はわくわくして、身体は少し疲れていたけど、心はまだ十分歩けると感じていた。

やがて島は、夕暮れを迎え、オレンジとピンクの光に包まれていった。

僕は今まで、あんなにきれいな夕焼けをみたことはなかったし、それから先も、この日の夕焼けを超える夕陽をみることはなかった。

レインボーテイルの中心に向かって歩いていくと、そこには深い森が広がっていた。

樹々はめいっぱい背を伸ばして

そこに降りてくる太陽の光と一緒に、美しい世界をつくりあげていた。

ルーナは森の空気を胸いっぱいに吸い込むと

ゆっくりと手を前に伸ばして、そっと小さな鳥を指先にとめるような仕草をした。

「パントマイムよ。上手いでしょ。」

目には見えない鳥が、彼女の指先に舞い降りて、また飛んでいった。

不意に、ルーナが大きな声で言った。

「ソル、あれを見て!」

上空から、バサバサっと鳥の羽ばたく音が聞こえた。

次の瞬間、僕ははっきりと目にしたんだ。

オレンジとピンクの夕陽に照らされた空に、虹色に輝く翼を広げた鳥が、飛んでいく姿を。

虹色の鳥は、僕らが見上げた空の上を、あっという間に飛び去っていった。

僕はルーナと目を合わせて、思わず、ぱちんと手を合わせてハイタッチした。

「ほんとにいたんだ!」

僕らは旅の疲れを忘れて、目を輝かせて笑いあった。

それから僕らは、虹色の鳥が飛んでいった先を追いかけて

深い森の奥に分け入って歩いて行った。

どのくらい時間がたっただろう。

気がつくと、森は静かな夜に包まれていた。

星の輝きと月明かりで、僕らの足元は照らされていた。

普通だったらきっと、迷ってしまうような、けもの道を歩いていたけど迷子にならなかった。

だって、虹色の鳥の羽根が、ところどころに落ちていて、月の光りを反射して輝いていて、まるで僕らに道案内をしてくれているようだったから。

今から思えば、あの鳥に導かれていたんだと思う。

ふいに横から声がした。

「待ってたよ。よくここまでたどり着いたね。」

僕は声がした方を見て、思わず息をのんだ。

そこには、帽子をかぶった虹色の鳥が、森の樹によりかかるようにして立っていた。

「あ、あ、あなたを探してたんです。」

僕は頭の中が真っ白になってしまって、振り返ってみれば、なぜそんなことをしてしまったのか分からないんだけど

思わず虹色の鳥に抱きついてしまっていた。

そして涙があふれてきて、泣きながらこう言った。

「僕のおじいちゃんは、あなたを探して一生を終えました。海賊や冒険家たちも、ずっとあなたを探してきたんです。

あなたは一体何者なんですか?」

虹色の鳥は僕の肩をぽんっとたたいてから、ささやくように答えてくれた。

「人間ってやつは大げさな生き物だな。オレはただの郵便屋だよ。手紙を届けるのがオレの仕事さ。

クライアントから依頼された手紙を届けるために、君たちをここで待ってたってわけさ。

ほんとはオレが君たちを探して、渡さなきゃいけないんだけど、どうやら君たちの方がオレを探してくれてたみたいだから、ここまで遠路はるばる、来てもらったってわけだよ。

羽根の目印、わかりやすかっただろう?」

虹色の鳥は、そういうとクスッと笑った。

僕は聞いた。

「あなたは僕らがここに来ることを知ってたんですか?」

虹色の鳥は手紙を二通取り出すと、僕らに一通ずつ渡しながら答えてくれた。

「あぁ、オレは未来がみえるからな。いろんな要素で変わるから、完全には分からないが。」

「はい、これはルーナさんへ」

「これは、ソルさんへ」

虹色の鳥は僕らの名前を知っていたけど、その時は気にもとめなかった。

だって、それよりも突然渡された手紙が、どこの誰から来たものなのかってことの方が気になったし、何よりも虹色の鳥と話せていることに、僕の心はどきどきがとまらなかった。

手紙を開くとそこには、こう書かれていた。

『親愛なるソルへ

そっちはきっと今から30年前のAIWOKA ISLANDね。

あの日の夕焼けはほんとうにきれいだった。

私は元気にしているわ、未来のあなたもね。

楽しい旅をありがとう。

虹色の鳥さんとの会話を楽しんでね。

ルーナより』

「え、、どういうこと? 僕は一瞬混乱して、ルーナの方を見た。

ルーナはそんな僕に気がつかないくらい、渡された手紙に目を落として没頭していた。

それからしばらくして、彼女は虹色の鳥に言った。

「あなたは、この手紙を書いた人を知っているのね。」

虹色の鳥は答えた。

「あぁ、この時代に戻って手紙を渡してくるように頼まれたんだ。

未来のあなたにね。」

「ソル、ここで少しまってて。

私は大事なことを、彼から聞かなきゃならない。」

そう言うと、ルーナは虹色の鳥と森の奥に消えた。

ルーナと虹色の鳥がいなくなってから、あたりは静まり返ってしまったけど、不思議と怖くはなかった。

虹色の鳥が落としていった羽根は、暗闇の中でも光っていて、何本か集めるとランプの代わりになったし、地面にはフカフカの干し草が、円形にほどよい厚みでしきつめられていて、なんだか安らぐ場所だったから。

虹色の鳥はきっとこの場所を寝床にしているのだろう。

僕はそのまま横になって、気がつかないうちに眠ってしまっていた。

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