「心の海」
(333mm×242mm キャンバス/2021年制作)
ときどき人間も自然の一部だってことを、忘れてしまうんですよね。
機械にかこまれた、いそがしい現代社会に生きていると。
時に、理由もなく不安になったり
たった一人、ポツンと世界から切り離されたような感覚におちいったり。
そんな気分の時、テレビやスマホの画面に流れてくるコマーシャルは、明るい声で語りかけてきます。
「心配はいらないよ、そんな気分の時はこの商品を使ったらいいよ!」と。
たしかに数えきれないくらい用意されてるんです。
不安な気持ちや、孤独な気持ちを、まぎらわせる為の娯楽も商品も。
ゲームも映画も、スポーツの中継もバラエティ番組も、自己啓発本もセミナーも、グルメもアルコールも。
私たちが抱えてしまっている、なんとも形容しがたい心にぽっかり空いてしまった穴を埋める為に、用意されているんですよね。
だから中毒になってしまうのは当たり前で。
栄養ドリンクみたいに、そういうものが必要な時もあります。
元気をくれたり背中を押してくれる事もあるから、すべてを否定することは、できないと思います。
でも、そういうものと、うまく距離をとって付き合えればいいのですが、それがなかなか難しいんですよね。
心が依存すればするほど、もっと強い刺激が必要になってくるし
やっぱり人工的なものでは、どうしても埋められない部分があるんだと思います。
私も大人になって、社会に出て働いていく中で、いつしか埋まらない心の穴を埋めようと、もがくようになりました。
自分の心がわからなくなってしまって、自分を探し出そうといつも必死でした。
そういう「存在の不安」から自分を解放してくれたのは、自然の中で何もしない時間を持つことでした。
ある時バックパックを背負って、一人旅に出たことが転機になったんですね。
手つかずの自然が残る小さな南の島で、一日中ただ何もせずに
太陽が沈んで行く海を眺めたり、星空を見上げたり、朝日が昇ってくるのを眺めたり。
自然の中で、深呼吸していたら、心の中に何年も詰まっていた想いが溶け出して
私の中で動かなくなっていた時計が、また前に向かってスッと動き出した気がしたんです。
人間は自然の一部ですからね。
人間が作り出したものが、360度、私たちを取り囲む「世界」であるかのように感じてしまうのですが
ほんとは人間は地球の一員だし
もっと大きな自然の摂理の一部なんだと思うんです。
人間って、自分で作り出した想像のオリの中に自分で入って
とらわれてしまう生き物なのかもしれないなって思います。
でもそこから一歩外に足を踏み出せば、世界はちゃんとありのままの姿で、私たちをきっと迎えてくれるんです。
だって、私たちは自然の一部であり、地球の子どもですからね。
私たちはきっと、過去からも未来からも繋がった、ありのままで祝福された存在なんです。
自然に身を委ねること。
自分の心の中に広がっている海に触れて、その波を感じること。
それがきっと一番の処方箋、なんですよね。