第7章「未来からの手紙」

翌朝、僕はルーナに起こされて目覚めた。

「おはよう、ソル。」

「あれ、あれから寝ちゃってたんだ、、。虹色の鳥は?」

「夜のうちに飛んで行ってしまったわ。次の仕事があるからって。」

「そうかー。何か聞けたかい?君の記憶に関わること。」

「うん。。ソル、浜まで歩かない?今なら朝陽が見えるかも知れないから。」

浜に降りるのは簡単だった。

ルーナは虹色の鳥から、昨晩近道を教わったと言って、道案内してくれた。

浜に降りると、朝陽がちょうど水平線から昇り切ったところだった。

海に朝の太陽の光が散りばめられて、波が優しく輝いていた。

ルーナは朝陽を吸い込むように、両腕を広げて、大きく深呼吸をした。

それを見て、僕も大きく深呼吸をした。

ルーナは昨日、虹色の鳥に手渡された手紙を、僕に差し出してきた。

「読んでいいのかい?」

そう言うと、ルーナはうなずいた。

僕は受け取って、手紙を開いた。

そこにはこう記されていた。

『親愛なる30年前のルーナへ

(少しおかしな書き出しね、あなたは私なんだから。)

30年かけて、記憶を取り戻すために、色々と調べたの。

そして私はようやく自分のことがわかったの。

それを伝えるために、この手紙をバードに託した。

彼は時空を超えて、手紙を届ける郵便屋だから。

過去にも未来にも、手紙を届けられるの。

(彼はこちらの世界では、「バードの時空便」って名前で、郵便屋をやってるわ。)

あなたが記憶をなくてしまったことには意味があって。

それはね、あなたの生い立ちと関係しているの。

AIWOKA ISLANDから、1000マイルほど離れた場所に「レアリテ」という王国があったの。

レアリテは要塞のように、壁に囲まれた国。

隣国との紛争が絶えなかったから、レアリテの人々は自分たちが住む街をレンガの壁でぐるっと取り囲んで、生活を守っていた。

壁の中は平和が保たれていて安心だったし、映画館やレストランや娯楽もあったから、壁の外にはでられなくても、人々は楽しく暮らしていた。

そんな生活の中で、レアリテの人々は、いつしか世界がどれだけ広いのかってことを忘れてしまった。

学校でも、外の世界のことは一切教えなかったから。

きっと、壁の中の平和を守るために、王様がそうしていたのね。

あなたはね、そんなレアリテの王様の2番目の子どもとして生まれてきたの。

好奇心旺盛なね。

あなたは小さな頃から、しばしば王宮を抜け出して、壁の上によじ登って空を眺めていた。

ある時、いつものように、壁に登って空を見上げていたら、虹色の羽をした鳥が飛んできたの。

その鳥は、頭上を越えて 街の中に飛んでいったかと思うと、しばらくしてまた壁の外に飛び去っていった。

それを見た時、鳥はレアリテの壁を越えて、自由に行き来できるんだってことに、気づいたの。

あなたは壁の外の世界を見てみたい、と強く思った。

それから、鳥が飛び去る時に落としていった虹色の羽根を眺めては、外の世界を想像する毎日がはじまったの。

そしてとうとう、ある月の晩に、あなたは壁の外に出ることを決意して、壁を乗り越えた。

壁面に生えたツタを足場にして、壁の外の世界に降りていったの。

でも、それはね

たとえの王様の娘といえども、レアリテでは許されないことだったの。

しばらく歩いたところで、あなたは王国の警備に捕まってしまった。

そして、裁かれた。

壁の外の世界を知ってしまった者は、レアリテでの記憶を取り上げられて、外の世界に追放される決まりだったから。

あなたは記憶をうばわれて、海の彼方に追放されたの。

最後に小さなボートを与えてくれたのは、レアリテの人々なりの良心だったのかも知れない。

それからあなたは、南十字星を頼りにボートを漕いだ。

どこに着くのかはわからなかったけど

いつも夜空に見上げていた星を目印に進めば、どこかにたどりつけると思ったから。

そして、あなたはAIWOKA ISLANDに流れ着いた。

ここから先はあなたが知っている通りよ。

そして今あなたは、未来のあなたからの手紙を受け取っている。

ここまで、私が調べたことをあなたに伝えてきたけど

本当に伝えたかったのは、あなたの過去じゃないの。

30年後のあなたが、これを読んでいるあなたに伝えたかったのは、たったひとつのこと。

あなたは、自分の人生を自分のやり方で切り開いて、生きて行っていいってこと。

わたしは30年間、ずっと無くした記憶にとらわれて生きてきてしまったの。

本当の名前を知りたかった。

でもね、本当の名前を知っても、何も変わらなかった。

それよりもルーナと名乗ってからの時間の方が大切だと感じたの。

あなたは自分で自分に名前をつけていいし、自分の人生を自分のやり方で歩んでいいの。

過去は変えられないかも知れないけど、未来は、今からちゃんとつくっていけるから。

あなたの未来の幸運を祈るわ。

30年後のルーナより。』

僕は手紙を読み終えて、ルーナの方を見た。

彼女は、朝焼けの海に向かって小石を投げて遊んでいた。

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