第1章「ソルとルーナ」
ソルとおじいちゃん
この不思議なお話は、この島に僕がやってきてから数日後
「心の港(ココロノポート)」っていう、島の唯一の港に
彼女のボートが漂着してるのを、見つけたところからはじまったんだ。
僕の名前はソル。
この島に数日前にやってきたんだ。
僕は「ある鳥」を探してる。
その鳥は普通の鳥じゃないんだ。
時空を超えて、自由に過去にも未来にも行ったり来たりできる虹色の鳥。
その鳥の事を知ったのは、一年前のこと。
おじいちゃんが残してくれた遺品を整理していた時に、その鳥について書かれた本を見つけたんだ。
おじいちゃんは研究者だったんだけど、ずっとその虹色の鳥を追いかけていたんだ。
虹色の鳥は、いろんな文献に姿を残していたけど、どの文献にも伝説の鳥として描かれているだけで、その鳥を捕まえたという記述はない。
七つの海を制した海賊も、古代の王も、名だたる学者たちも、皆その噂話に魅了されて、たくさんの財を投げ打って、行方を追っていたみたいなんだけど、結局今にいたるまで、その鳥をつかまえた人はいないんだ。
おじいちゃんも、ずっと虹色の鳥に魅了されていた。
本の中にはたくさんのメモが書かれていたんだけど、その中に虹色の羽がしおりみたいに挟まっているページがあったんだ。
そして、おじいちゃんの字で「AIWOKA ISLAND」ってこの島の名前が記されていた。
僕はそのメモに導かれて、この島にやってきたってわけ。
ちょっと僕の紹介が長くなっちゃったけど、物語を続けよう。
記憶をなくした女の子
その日、僕は虹色の鳥の手がかりを求めて、「ココロノポート」を探索してたんだ。
海の向こうに見える水平線を横目に眺めながら、僕は歩いていた。
海は太陽の光を反射してキラキラしていた。
僕の故郷には海がないから、この光景をみているだけで、なんだか気分が良かった。
散策を切り上げようとした時に、大きな岩の向こう側に小さな手漕ぎボートを見つけた。
近づいて中をのぞくと、そこには赤いバンダナを巻いた女の子が目を閉じて横たわっていた。
まさか中に人がいるとは思っていなかったから、僕は彼女を見つけて息を飲んだ。
そして、彼女におそるおそる声をかけてみた。
「大丈夫ですか?」
すると彼女は、ゆっくり目を開けて「のどが渇いた」と言った。
僕はかばんの中から水筒をとりだして、彼女に水を飲ませてあげた。
「ありがとう。ここはどこなの? 」
「この島は、アイオカ アイランドという島さ。僕はある鳥を探しにこの島に来たばかりなんだ。君はどうしてここにいるんだい?」
「わからないの。海が激しく荒れた夜に、船が壊れて沈んでしまって。私はこのボートで逃げ出したの。それだけは覚えているんだけど。」
「僕の名前はソル。きみは?」
「私は、、名前が思い出せないの。」
彼女はほとんどの記憶を失っていた。
名前も、どこから来たのかも、わからないと言った。
ボートの上には、一枚の毛布があるだけで、彼女は他に何も持っていなかった。
「記憶の手がかりになりそうなものがあったらいいけど。」
そう僕が言うと、彼女は思い出したようにポケットの中から一枚のメモをとりだして見せてくれた。
それは僕にとって驚くべきものだった。
そこには、月のマークと、あの鳥の羽根の絵が書かれていたんだ。
僕は息を飲んで、そのメモをしばらく見つめていた。
僕は彼女に、おじいちゃんのこと、虹色の鳥のこと
その鳥を探しにこの島にやってきたことを順番に話した。
彼女のメモに書かれていた虹色の羽根の絵は、僕にこの島にあの鳥がいることを確信させた。
「君ももしかしたら、虹色の鳥を探しに、この島にやってきたのかも知れないね。よかったら一緒に探さないかい?
記憶を戻すための手がかりがあるかも知れないし。」
「うん、私も虹色の鳥を見てみたいわ。よろしくね。ソル。」
僕は答えようとして、彼女をどうやって呼んでいいか分からないことに、気がついた。
そこで、この島の言葉で月を意味する名前を、彼女に伝えてみた。
「ルーナってどうかな、あのメモに月のマークがあっただろう?月って意味の言葉なんだけど、本当の名前が見つかるまでの名前。どうかな?」
彼女は少し考えてから「いいわ、ルーナっていい響きね。」と言って笑った。