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第2章「ちっともの森」

緑のトンネル

僕らはすぐに意気投合した。

そして、しばらく話していたら「虹色の鳥が住んでいる場所はやっぱり森なんじゃないかな」ってことになって、僕らは地図を頼りに、島の中心部に広がる森を目指すことにしたんだ。

川沿いを歩きながら進んでいくと、やがて左右から樹々が生い茂って、まるでトンネルのようになっている場所に出た。

出発してからどれくらい経っていただろう、気がついたら太陽は傾き、オレンジ色に変わっていた。

トンネルの中は樹々の間から夕陽の光がこぼれてきて、心地よかった。

でもしばらく歩いたら、日が落ちきってしまって、あっという間に暗くなってしまった。

だいぶ歩いてきたはずなんだけど、トンネルの終わりはまだ見えなくて、僕は戻るべきか進むべきか迷い始めていた。

その時、突然僕の足首に、柔らかい感触がするりと一周して消えたのを感じた。

僕は思わず声をあげてしまった。

「うわー!」

「どうしたのソル?」

「何かがいるよ。足元に触っていったんだ。ルーナも気をつけて。」

僕は、かばんの中からペンライトを取り出して、周囲を照らしてみた。

するとルーナの肩に小さな影が登っていくのが見えた。

「ルーナ!肩を見て、そっちにいってるよ!」

僕の心配をよそに、ルーナは落ち着いていた。

「あら、リスよ。ソル、驚きすぎじゃない?リスがやってきたんだわ。この森に住んでいるのかしら。この子に道案内をお願いするわ」」

ルーナはリスを手の上に乗せて、頭をなでながら笑った。

リスは道案内をしてはくれなかったけど、だいぶ僕らを和ませてくれた。

僕らは小さなペンライトを頼りに、足元に気をつけながら進んだ。

そして、ようやくトンネルの終わりまで歩いてきた。

緑のトンネルを抜けると、そこには星空が広がっていた。

道の先には、森が輝いていた。

少し変な表現かもしれないけど、文字通り輝いていたんだ。

その森には、星のかけらが降り注いでいて、森自体が、まるで夜空みたいに静かに輝いていた。

森の住人

星のかけらで輝く森の中に、僕らは足を踏み入れた。

森の中には、それまで見たことがない世界が広がっていた。

そこでは、樹々の内側が星の瞬きのように輝いていた。

夜空から降り注ぐ光の粒が、枝をつたって、やがて幹に流れ込んで、根をつたって土にかえっていく。

とても不思議な光景だった。

そのまま森の中を散策していると、ひときわ大きな樹が立っていた。

ルーナがその樹の幹に手を触れた後、彼女は悲鳴をあげた。

「痛い!」

次の瞬間、僕は彼女の方を見て驚いて声をあげてしまった。

動物の気配なんてそれまで全くしなかったのに、彼女の腕に青緑色の動物が噛み付いていたから。

「大丈夫かい!」

僕は必死で青緑色の動物を、彼女の腕から引き離した。

青緑色の動物は、呼吸を荒げて牙をむいて怒っていた。

「ウー!ウー!」

ルーナは、その姿を見て怒りの理由を感じ取ったようだった。

「ごめんなさい、あなたはこの樹を守っていたのね。」

よくみると青緑色の動物は、人間の子どもの様な顔をしていた。

動物図鑑に載っているような姿ではなかったから、どう表現していいのかわからないんだけど、怪獣のスーツに包まれているような、そんな不思議な風貌をしていた。

僕らはこの時は、彼をなんて呼んでいいかわからなかったんだけど、後から「小さなかいじゅう」と呼ぶことにした。

登場シーンではびっくりさせられたけど、よく見たら、なんだか愛らしい姿に思えたから。

「小さなかいじゅう」って言うのがピッタリだと思ったんだ。

やがて小さなかいじゅうは、落ち着きを取り戻して樹の後ろに隠れてしまった。

「言葉が通じるのね」

ルーナは足もとに咲いていた花を摘んで、小さなかいじゅうに差し出した。

「さっきはごめんね、驚かせてしまって」

樹の後ろから手が出てきて、花を受け取ると、今度は顔を出して、小さなかいじゅうは「ありがとう」と言った。

気がつくとルーナは、小さなかいじゅうと、話をしていた。

光る樹の根元に腰掛けて。

僕は少し離れた場所に腰をおろして、カバンからノートを取り出して

この不思議な森をスケッチしていた。

なぜだか分からないけど、その時のルーナと小さなかいじゅうの姿を記録しておきたいと思ったんだ。

ひとりぼっちだったこと、気づいてほしかったこと、友達だと思っている森の木を、切り倒しにやってくるにんげん達のこと。

小さなかいじゅうの感情にあわせるように、樹も空も色を変えていくようだった。

森全体が、小さなかいじゅうと一緒に、気持ちを伝えてきているみたいだった。

やがて小さなかいじゅうの頬に涙が流れて、それが光の粒を反射して光っていた。

朝が来て、僕らが目覚めた時、そこにはもう、小さなかいじゅうの姿はなかった。

虹色の鳥も、ルーナの記憶を戻すための手がかりも得られなかったけど、この不思議な森で過ごした美しい夜のことは、きっと忘れることはないだろう。

僕らは朝ごはんを食べてから、ひざの上で地図を広げて、次の目的地を探した。

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