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第4章「ゴロタのビーチ」

風変わりな猫

僕らは、島の外周をなぞるように北上した。

穏やかな海を見ながらしばらく歩いていたら、僕はなぜだか、少しだけ家が恋しくなってしまった。

ふと我に返って、ルーナの顔を見ると、彼女はくすっと笑って言った。

「まじめな顔してるソル、はじめてみたわ。虹色の鳥を見つけたら、上手にスケッチしてね。私は隣で踊るから。」

僕は答えた。

「うん、一緒に島を探検してくれて、ありがとう。」

それからどれくらい歩いただろう。

僕らはいつしか、白い砂浜のビーチにたどり着いていた。

そこから見える景色は、とても素晴らしいものだった。

だって、まるで僕らを待っていたかのように、大きな虹が水平線の向こうにかかっていたんだから。

「虹が海にかかる日は、探しものが見つかる日。この島の昔からの言いつたえだよ。」

ルーナと海を眺めていると突然、しわがれた声が僕らの後ろからした。

振り返ると、そこにはデニムの帽子に、デニムのオーバーオールを着た一匹の猫が立っていたんだ。

彼はまるで歌う様に、そのしわがれた声でこう言った。

「君たちは運がいい。今日みたいに大きな虹には、めったにお目にかかれないからね。」

オーバーオールを着た猫は、あくびをひとつすると、少しいたずらな顔で笑って、たずねてきた。

「ところで、こんなところに君たちは何をしにきたんだい?

ここら辺には洒落たレストランはないよ。どこまでも続く水平線と砂浜があるだけさ。」

僕は彼に、虹色の羽の鳥を探していることルーナの記憶の手がかりを探していることを伝えた。

そして、かばんの中からルンタッタにもらったクッキーを取り出して、彼に手渡した。

「おやおや、草原からの届け物かい?あいつらしいな。

君たちも、まんまとここに、クッキーと一緒に届けられたってわけだ。」

彼のしわがれた声は、まるでブルースシンガーのように響いた。

耳じゃなくて、そのまま胸に届いてくるような、そんな不思議な声だった。

「あらためまして、はじめましてお二人さん。

ルンタッタの客人は大切にしなければいけないね。

彼にはたくさん借りがあるんだ。自分はゴロタっていうんだ、よろしく。」

ゴロタは椅子に腰掛けると、僕らにこの島で採れるという、見たことのない果物をくれた。

みずみずしくて甘くて、バニラのような良い香りのする果物は、この島によく似た形をしていて、僕は一口食べて、すぐにとても気に入ってしまった。

虹のふもと

彼はしばらく、ビーチから見る朝陽と夕陽のすばらしさについて話してくれた。

彼は水平線を「空と海とが出会う場所」と呼んでいた。

毎日そこで起こるドラマを見ているのだそうだ。

ひと息つくと、彼はあの鳥について語りだした。

「君が探してる鳥のすみかを、オレは知ってるよ。

君がそこに行きたいなら、その場所を教えてあげることはできる。

でもそこにたどり着けるかどうかは、誰にも分からない。」

僕は宝物を見つけた気分で言った。

「やっぱり虹色の鳥はこの島に住んでるんですね」

彼は僕があの鳥の話に夢中になっていることを察して、一段低い声で、物語の語り部のように語りだした。

「いや、この島にはいない。その鳥、、オレたちは「バード」ってよんでるんだけど、、古来から人間に名前をつけられずに生きのびてきた不思議な鳥だからな、、

「the bird」って意味で、オレたちはそう呼んでる。

そのへんは、まぁいいが、その鳥がすんでる場所は簡単に人間が行ける場所じゃないんだ。」

「どういうことですか?」

「虹のふもとだよ。きみは虹のふもとを見たことがあるかい?」

虹のふもとってどうなってるんだろう?

僕はそんなこと考えたことがなかったから、答えに窮してしまった。

そんな僕を見てゴロタは笑って、大昔のポップソングのフレーズを、替え歌してくちずさみながら、話を続けた。

「君は虹のふもとをみたかい?そこには島があるんだ、レインボーテイル、レインボーテイル♪」

「島なんだよ。虹のふもとにはレインボーテイルって名の小さな島がある。

でも、その小さな島に近づこうとする者がいると、海は荒れ、嵐がやってきて空には雷が鳴り響いて、だれもそこにはたどりつけないんだ。

海賊の宝が眠ってるってもっぱらの噂だよ。

だから、腕っぷしに自信のある者たちが、ときおりあの小さな島を目指すんだが、どういうわけか荒天でたどりつけないんだ。」

「でも、そこが虹色の鳥のすみかだってなんで分かるんですか?」

「飛んでいくからな。あの島の方角に。

運がいいとビーチから見えるんだよ、すみかに帰るために飛んでいく姿が。

虹のアーチをなぞるように飛んでいく。

ちょうど今日みたいな大きな虹がかかる日は、あの鳥が島に向かって飛んでいく日だよ。」

僕は彼の話を聞いているだけで、どきどきが止まらなかった。

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