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「過去からの手紙」

森の中に古びて朽ちた家を見つけた。

そこは祈りの場所のようにも思えた。

人の気配も暮らしの気配もなかったけど

私より先にこの森に誰かが来ていたということを

家は無言で教えてくれていた。

私はまるで、この古びて朽ちた家のようだ、と思った。

若い日に失った記憶を取り戻すこと。

私の人生の自由になる時間は、ただそのために使ってきた。

その願いを叶えられた時、すべてが報われる。

そう信じて過ごしてきた。

でも、その願いが叶った後

私の中に残ったのは、ぽっかりと空いた大きな空洞だった。

テーブルの上に残されていたノートを

パラパラとめくりながら

物思いにふけっていた私は

ノートの隅に名前を記すと、古びた家を後にした。

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