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「身体と心」

森の奥で「お見送り」があるから君も行ってくるといい。

かみさまは、そう言って私を送り出した。

森の奥では、小さな葬いが行われていた。

小鼠(こねずみ)の亡骸(なきがら)から、たましいが天に帰って行く。

光の粒が空を舞っていた。

風も光も、樹々も木漏れ日も

小鼠(こねずみ)を慈しむように共鳴していた。

いつか来る終わりがあるということの救いと

この森にやってきたことの意味を私は理解した。

「準備はできたかい?」

優しい声はあの時のバスタオルみたいに、私を包んだ。

私は小さく頷いて「はい」と答えた。

ずっと流せなかった涙が、一筋ほおを伝った。

土の上に涙が一粒こぼれると、森の樹が私を飲み込んだ。

樹の中を、空気や水と一緒になって流れて行く。

根っこから幹を伝って枝の先へ

私はすごい速度で樹の中を押し上げられていった。

まるでジェットコースターに乗っているみたいだ。

枝の先まで来た時、枝は空に向かって伸び出した。

止まらずに、どんどん加速して空高く伸びて行く。

やがて空を突き抜けて、大気圏を超えて

月が見えたところで、視界がくるんと反転した。

そこには宇宙の暗闇の中、青く輝く惑星がぽつんと浮かんでいた。

とても美しい星だった。

それを見た時、涙が湧き上がって来て私の中に溢れた。

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