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時計

答えあぐねている私をしばらく見た後

クスっと笑って

「冗談よ」と、彼女は言った。

「あなたから、もう大事なものはもらったから」

「それはね、未来よ。

あったかもしれない未来。

叶えられなかった未来。

あなたは、それがずっと心の奥につっかえて

前に進めなかったのね」

夜の闇が、私とマーレの境界を溶かして

ひとつに包んでくれていた。

心の中をのぞかれた気がしたけど

もうそれでもよかった。

私の中で止まっていた時計は

再び流れ出す時を待っていたんだと

気がついた。

「私たちは繋がっているのよ

遥か昔からね。

魂はとても長い旅をしているの。

あなたの経験をそこに加えることが

宇宙を喜ばせる事なの」

マーレと私は魚になって、深い夜の海を泳いだ。

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